東京都は2020年4月から、築年数の古いマンションを対象に管理状況の届出を義務化した条例を制定しました。
神戸市では、高さ60メートル以上のタワーマンションを対象とした認証制度がスタートします。
築年数の古く老朽化の進んだマンションが及ぼす、周辺地域への悪影響について報道される事例が増えてきました。
分譲マンションは管理組合を組織し、適正な管理を行うことが義務付けされていますが、「区分所有法」が改正された昭和58年以前のマンションには、管理組合に加入していない区分所有者の存在や、管理組合そのものが無いものもあり、古いマンションほど老朽化や空住戸問題を抱えています。
ここでは、管理組合に対する自治体の関与が、将来起こることが確実なマンションの高齢化問題に対し、どのような効果があるのかを考察してみます。
進むマンションの高齢化
冒頭に書きましたが、東京都は以下のようなことを目的として「東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例」を制定しました。
- マンションの管理不全防止
- 適正な管理の促進によるマンションの社会的機能の向上
- 良質なマンションストックと良好な居住環境の形成
- マンション周辺の防災・防犯の確保と衛生・環境悪化の防止
- 住民生活の安定と市街地環境の向上
いろいろと目的を掲げていますが、重要なのは管理不全防止です。
管理が適正に行われないことによって様々な問題が生じてきます。
マンション管理が管理不全になってしまう原因
本来は適正に行われるはずのマンション管理が、適正に行われない“管理不全”の原因には次のようなものが考えられます。
- 管理費や修繕積立金が不足しており十分な管理ができない
- 管理組合に対する区分所有者の参加意識が低い
- 管理者の当事者能力が低く管理組合が機能しない
- 賃貸利用物件が多く区分所有者の当事者意識が低い
- 空き住戸の増加に伴い所有者不明(不在)住戸が増加する
このような傾向は築年数の古い物件ほど多くなり、空室が目立つようになったマンションは少なからず管理不全になっていると思われます。
空室が多い → 管理費・修繕積立金が不足する → 居住性が悪化 → 資産価値が下がる → 相続する人がいない → 空室が多くなる
と悪循環が起きてしまいます。
一度このような状態になってしまうと、中には安くても手放したいと考える所有者もおり、格安価格で売却されることがあります。
市場価格を大幅に割り込む物件は、投資対象としてはたいへん魅力のある物件で、高利回りでの運用が可能です。
所有者にとっては、毎月の家賃収入が最大の関心事であり、マンション全体の管理はまったく無関心という状態になりかねません。
そのような住戸が増えれば増えるほど、適正な管理からは程遠いものになっていきます。
届出制度によって管理不全を防ぐことはできるか
マンション管理が管理不全に至る原因には、いくつかの要因が複合していることが多いと考えられますが、根本的には区分所有者の中に“管理への意識が低い人”あるいは“管理に関わりを持とうとしない人”がある程度の割合で存在することだと考えられます。
空き室の法定相続人が相続登記をしないケースも、結果として“管理に関わりを持とうとしない人”に該当します。
届出そのものは管理委託をしている管理会社や、自主管理の場合でも管理組合執行部がしっかり機能していれば、行われると思いますが、問題となるのは
- 届出をしない管理組合
- 届出はしているが管理状況が著しく劣る管理組合
これらの管理組合に対する是正措置が、この制度で実行できるかどうかです。
管理不全のマンションを増加させる二つの高齢化
管理不全マンションについては“二つの追い”という言葉がよく使われます。
建物の老朽化と居住者の高齢化です。
自分の資産であるマンションは、専用部分はもとより共用部となるマンション全体の健全性を保つことが、自分の資産を守ることでもあります。
その為には区分所有者全員が自らの資産を守ろうとする意識が大切ですが、高齢化に伴い、面倒なことは他人に任せたいという意識が強くなってきます。
戸建住宅であれば、住まいという資産の維持管理は自ら行わなければなりません。年老いて来ると、自宅のメンテナンスなどいろいろ面倒だから、戸建住宅を売却しマンション住まいにという人も多いと思います。
しかし、戸建であればメンテナンスを疎かにしても自己責任であり、他人の迷惑になることはほとんどありませんが、逆にマンションの場合は率先して管理状況に関心を持ち、自らの身体を動かさないまでも、他人任せにせずに管理に関わる諸問題について、実態を把握し問題があれば改善する方向に組合員全員の意見を集約するといった、積極的な考え方が必要です。
面倒なことは他人に任せたいという意識が、管理不全のマンションを生み出す遠因になっているとも言えるでしょう。
高齢社会を迎えてあらゆる面で“老い”が生み出す社会の変化がおきています。
最近特に多くなっている高齢者ドライバーによる交通事故は、高齢者と社会との関わり方を見直す切口にもなろうとしています。
20年後には築40年を超えるマンションが、現在の5倍、351万戸に達すると言います。
参照 ⇒ 「老朽化マンション」の不都合な真実
老後を安心して暮らしたいと選択したマンションが、社会の大きなお荷物になってしまうかもしれません。
面倒なことに進んで首をつっこむという心構えが、マンション生活には必要だと思います。
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