平成12年5月以前の新耐震基準木造住宅の危険性を検証する

昭和56年6月以降の木造住宅は“新耐震基準”で建てられていますが、平成12年5月を境にして、5月以前と6月以降とでは、耐震性能に大きな違いがあります。同じ基準で建っているからと安心はできません。もしお住いが昭和56年6月~平成12年5月に建てられたものでしたら、簡易に安全性を検証することができます。

地震

日本建築防災協会が「新耐震基準の木造住宅の耐震性能検証法」を2017年5月に公開しました。
この検証法は国土交通省の要請により取りまとめたもので、2016年4月の“熊本地震”による被害状況の深刻さから、『2000年6月に行われた耐震基準の見直し』前に建てられた“新耐震基準住宅”の耐震性能を所有者などが簡単に検証できるようにしたものです。

2種類の新耐震基準適合住宅が存在する

“新耐震基準”と言いますが実は2種類あります。

  • 1981年6月1日~2000年5月31日の期間に建てられた木造住宅
  • 2000年6月1日以降に建てられた木造住宅

2000年5月に耐震基準が見直され、より耐震性の強い建物を建てるように建築基準法が変わっています。見直しされた原因は1995年1月の阪神淡路大震災でした。

見直しされた内容を簡単に説明します。

  • 地盤調査の結果に基づいた基礎の設計が必要に
  • 柱頭、柱脚、筋交いの接合部には金物を使用する
  • 耐力壁の配置バランスをよくする為の計算が必要に

このような見直しにより2000年6月を境に耐震性能が向上しています。

「新耐震基準の木造住宅の耐震性能検証法」の位置づけ

2016年の熊本地震により倒壊した建物の中には、1981年6月以降の“新耐震基準”で建てられた住宅がたくさんありました。

下のグラフは熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会報告書/国土交通省

に掲載されたものです。

益城町被害

被害が非常に大きかった益城町の建物被害状況をまとめたものです。

木造建物全1955棟のうち297棟が倒壊または崩壊しました。
それらを耐震基準の年代別に区分したグラフです。

  • 旧耐震基準の木造建物 ~1981年5月:759棟(72.0%)
  • 新耐震基準の木造建物 1981年6月~2000年5月:76棟(25.6%)
  • 新耐震基準の木造建物 2000年6月~:7棟(2.4%)

倒壊・崩壊した建物に占める新耐震基準の建物の割合は28%にも及びます。そして耐震性能が向上したはずの建物が7棟倒壊・崩壊しています。

国土交通省が問題視したのが、1981年6月~2000年5月の新耐震基準で建った建物の安全性です。

新耐震基準で建った建物でも安全ではないという事実を、広く知ってもらい、場合によっては新耐震基準の建物でも“耐震補強”が必要だということを啓蒙しようという意図があるのだと思います。

「新耐震基準の木造住宅の耐震性能検証法」の概要

耐震性が心配な場合には耐震診断を専門家にしてもらうのがいいのですが、費用もかかるしすぐにやってくれるものでもありません。

そこで、所有者自らまたはリフォーム工事の際に、工事業者が簡単にできる耐震診断検証法があれば、「とりあえず調べてみよう」ということも可能です。

  • とりあえず大丈夫そうだ
  • 専門家に耐震診断をしてもらうほうがよい

このようにスクリーニングができると、リフォームの計画などに組入れて、自宅の耐震改修の方向性を決める判断材料ができるというわけです。

実際にどのような方法でとりあえずの診断をするのかご紹介します。

1.平面と立面の整形をチェック
整形チェック

1階の間取りが整った四角形になっているかをチェックします。凸凹が多すぎるのは不合格です。
建物を横から見て上下のバランスをチェックします。
1階が2階よりも引っ込んでいると不合格です。

2.柱と梁の接合金物をチェック
工事中の写真や図面で接合部に金物が使用されていることを確認します。
図面が無かったり工事中の写真が残っていない場合は、小屋裏に上ったり床下にもぐったりして確認し、写真撮影をします。
金物の使用が確認できない場合は不合格です。
3.外壁面4面の開口率をチェック
東西南北、4面ごとに外壁にある開口部の長さをチェックし、開口していない壁の長さが3割以上あるか計算します。
3割未満の場合は不合格です。
4.劣化ぐあいをチェック
  • 外壁の健全性
    1点~ひび割れや剥落、水浸み痕、こけ、腐朽などが全くない。あるいは、定期的にメンテナンスを行っている。
    0点~ひび割れや剥落、水浸み痕、こけ、腐朽などがある。
  • 屋根の健全性
    1点~瓦やスレートが健全で、棟や軒がまっすぐで波打ったりしていない。
    あるいは、定期的にメンテナンスを行っている。
    0点~瓦やスレートが健全で、棟や軒が下がったり波打ったりしている。
  • 基礎の健全性
    1点~ひび割れが無く健全である。
    あるいは、定期的にメンテナンスを行っている。
    0点~ひび割れが散見される。
  • 居室や廊下の健全性
    1点~傾斜が無く、過度のたわみや振動が無い。
    あるいは、リフォームを行っている。
    0点~傾斜がある。または過度のたわみや振動がある。
  • 浴室周りの作り
    1点~ユニットバス。あるいは、リフォームを行っている。
    0点~タイル貼りなどの在来浴室。

判定方法

検証項目「1.平面と立面の整形をチェック」「2.柱と梁の接合金物をチェック」「3.外壁面4面の開口率をチェック」がすべて“合格”で、「4.劣化ぐあいをチェック」で4点あれば一応倒壊しないになります。

検証項目1~3のうち、一つでも不合格があるか、検証項目4が3点以下であれば、専門家による検証が必要です。

検証項目3.外壁面4面の開口率をチェックは計算をしなければなりませんので、少し面倒ですが、他は簡単に検証できるものです。

床下にもぐったり小屋裏に上るのは、リフォーム工事店に見てもらうなどすると、確認できるので、やってみて下さい。
そして、専門家による検証が必要となった場合には、建築士事務所などに相談してみて下さい。

参照》》》新耐震基準の木造住宅の耐震性能検証法

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