民泊と賃貸を迷っているなら試験的に1室を民泊にする方法

アパートの入居率が悪く “民泊”利用を考えている大家さん。
うまくいくのかどうか躊躇してなかなか計画が進まないとき、試験的に民泊活用をしてみる方法があります。

民泊の届出をまずやってみる

「民泊にしてうまく客が来るのか」など心配する前に、まず届出をしてみましょう。
提出書類の作成や窓口申請の代行サービスは数万円の費用がかかりますが、自分ですべて行う場合は届出に費用はいりません。
まず届出の仕方を確認しましょう。

届出の仕方

届出は電子申請か郵送または窓口でおこないます。
届出する内容は下表のとおり。

事業者が個人の場合 事業者が法人の場合
事業者名 氏名、住所 商号・名称、住所
未成年の場合は法定代理人の住所・氏名*注1 役員の氏名
宿泊住宅の所在地 住所
営業所又は事務所
を設ける場合
名称、住所
管理業者に委託する場合 住宅宿泊管理業者の商号、名称又は氏名、登録年月日、登録番号、管理受託契約の内容(法第34条第1項)
事業者に関する事項 事業者の生年月日、性別 役員の生年月日、性別
未成年の場合は法定代理人の生年月日、性別*注2 法人番号
住宅宿泊管理業者の場合は、登録年月日、登録番号
連絡先
宿泊住宅に関する事項 住宅宿泊事業法施行規則第2条に掲げる家屋の別
一戸建ての住宅、長屋、共同住宅又は寄宿舎の別
住宅の規模
住宅に人を宿泊させる間不在とならない場合は、その旨
賃借人の場合は、賃貸人が住宅宿泊事業を目的とした転貸を承諾している旨
転借人の場合は、賃貸人と転貸人が住宅宿泊事業を目的とした転貸を承諾している旨
区分所有の建物の場合、管理規約に禁止する旨の定めがないこと管理規約に住宅宿泊事業について定めがない場合は、管理組合に禁止する意思がない旨

注意したいのは、オーナー自身がアパートの1室に居住している場合や同一敷地に居住している以外は、住宅宿泊管理業者に管理を委託しなければなりません。
その場合は届出にあたって、住宅宿泊管理業者と打合せや委託契約をおこなっておく必要があります。

届出をすると内容に不備がなければ “民泊” として登録されますが、登録住宅の要件がありますので確認しておきましょう。

設備要件に関すること
台所、浴室、便所、洗面設備といった設備が必要ですが、賃貸物件の場合これらの設備はほとんど満たしていると思います。
居住要件に関すること
民泊として届出できる住宅は次の3つのタイプがあります。

  • 現に人の生活の本拠として使用されている家屋
  • 入居者の募集が行われている家屋
  • 随時その所有者、賃借人又は転借人の居住の用に供されている家屋

賃貸物件を民泊活用するケースでは「入居者の募集が行われている家屋」に該当し、宿泊客が利用している期間も入居者募集を継続していなければなりません。

届出はオンラインが便利

届出はオンラインで簡単にできますが、事業者本人による届出が義務なので電子署名を用いておこないます。
電子署名は個人の場合は公的個人認証サービス、法人の場合は商業登記に基づく電子認証制度を利用します。

届出は民泊制度運営システムを利用しておこないますが、使いかたは民泊制度運営システムの利用方法を読むとだいたいわかります。

「民泊制度運営システム」は登録後も、毎年偶数月に以下の項目について都道府県知事等への定期報告のため、利用するので使いかたをマスターしておきましょう。

  • 届出住宅に人を宿泊させた日数
  • 宿泊者数
  • 延べ宿泊者数
  • 国籍別の宿泊者数の内訳

オンラインでの届出は事業者本人のIDが必要なので、代行サービスではオンライン届出はできないので注意してください。

住宅宿泊管理業者の役割

アパートなど賃貸住宅の一部または全部を民泊に利用する場合、ほとんどは住宅宿泊管理業者に委託することになります。
住宅宿泊管理業者がおこなう業務内容を確認しておきましょう。

住宅宿泊管理業者の業務内容は「住宅宿泊事業法」第5条から第10条に規定されており以下の役割を担います。

  • 宿泊者の衛生の確保を図るため、居室の床面積を宿泊者ひとりあたり3.3㎡確保し、定期的な清掃と換気をおこなう
  • 宿泊者の安全の確保を図るため、非常用照明器具を設置し避難経路を表示する
  • 外国人観光旅客である宿泊者の快適性及び利便性の確保を図るため、設備の使用方法・交通手段に関する情報・災害が発生した場合の連絡先、これらを外国語で分かるようにし、その他外国人観光旅客の快適性及び利便性の確保を図る
  • 宿泊者名簿を記載し都道府県知事等から要求があった場合は提出する
  • 騒音の防止や周辺地域への悪影響防止に関することを宿泊者に説明する
  • 周辺地域住民から苦情や問い合わせがあった場合には適切に迅速に対応する

管理業者に委託する場合の注意点があります。
一部の業務はオーナーがおこないその他の業務を管理業者に委託する「部分委託」はできません。すべての業務を委託することが義務付けられています。

住宅管理業者を探すときは住宅宿泊管理業者登録簿が便利です。

経営方針を見直す

賃貸事業は新築から10年経過すると、陳腐化や劣化箇所が目立つようになり、近隣の競合物件の増加など入居率が低下するものです。
空き住戸を民泊活用してはという提案はずいぶんネット上でもみますが、実際に民泊に変えてうまくいくのかどうか見通しを立てるのは難しいもの。

そこで1戸だけをまず民泊活用してみる方法があります。
もしうまくいきそうであれば需要状況を見極めながらもう1戸追加する、需要が思ったより無いと感じたら1戸だけの民泊活用しながら、家電付きの賃貸という方法で入居促進を図る考え方にシフトすることもできます。

1戸とか2戸とかをとりあえず民泊にしてみる方法は、あまりリスクを負うこともなく気軽に試せる方法だと思います。

集客方法

賃貸事業の入居者は不動産仲介会社に依頼して集客を図りますが、民泊は「住宅宿泊仲介業者」や民泊を扱う旅行業者に依頼します。

最も集客力のある業者が「Airbnb」。
世界の192ヶ国 80万以上の民泊を登録した最大のポータルサイト。

民泊の検索から宿泊予約そして予約金の支払いまでこのサイトで完了します。

Airbnb以外の仲介業者を探すなら「住宅宿泊仲介業者および民泊を取り扱う旅行業者のリスト」から探すこともできますが、ダブルブッキングの可能性もあるので、とりあえずはAirbnb一本にしぼっておくほうがよいと思います。

賃貸+民泊事業シミュレーション

賃貸事業の一部に民泊を加えた場合、どの程度の経営改善が図れるかシミュレーションしてみました。

モデルとして以下の条件を設定します。

住戸:2DK 8戸
家賃:70,000円
借入:5,000万円 30年返済 金利2%

この条件で新築から10年目の収支バランスを入居率85%と55%で比較してみます。

入居率 85% 55%
年間収入 5,712,000 3,696,000
必要経費 4,356,003 4,083,843
借入金返済 2,232,496 2,232,496
元金返済 1,472,947 1,472,947
金利返済 759,549 759,549
建物減価償却費 1,932,000 1,932,000
設備減価償却費 134,000 134,000
税引前利益 1,355,997 -387,843
所得税率 5% 0
所得税額 67,800 0
キャッシュフロー 1,881,251 205,211

入居率が55%まで低下すると非常にまずい経営状態です。

改善策として1戸を民泊にします。
室内はそのままとして、冷蔵庫やテレビなどの家電を新たに設備します。

下表は55%入居率に民泊1戸をプラスした収益計算。
民泊の条件は以下の設定です。

宿泊料金/泊:9,000円 宿泊3名
宿泊日数:180日
民泊収入:1,620,000円
必要経費:567,000円(35%)

賃貸 民泊 合計
年間収入 3,696,000 1,620,000 5,316,000
必要経費 4,083,843 567,000 4,650,843
借入金返済 2,232,496 2,232,496
元金返済 1,472,947 1,472,947
金利返済 759,549 759,549
建物減価償却費 1,932,000 1,932,000
設備減価償却費 134,000 100,000 234,000
税引前利益 -387,843 665,157
所得税 0 33,200
キャッシュフロー 205,211 1,325,011

民泊が成立する立地条件

8戸のうち1戸を民泊に切り替えるだけでも収益性は高まる可能性があります。
ただし民泊活用が賃貸事業の収益向上にとって、効果が出るにはひとつ条件があります。

“観光客の宿泊が見込める地域” です。
しかも外国人観光客も多く訪れるところに限定されると思います。
日本全国どこでも可能な方法ではありません。

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