太陽光発電買取り制度(FIT)廃止により生まれる問題は何か

2020年に改正法が提出されるかも知れない「太陽光発電買取り制度(FIT)の廃止」
2012年に菅政権により本格導入され7年が経過し、再生エネルギー発電の割合は2018年で17.4%を占めるようになりました。
FITの認定容量のうち太陽光発電が占める割合は8割に達していると言います。

2019年問題そして2022年には本格導入後の設備が買取り契約期間の10年を迎えることになり、FITの廃止によりどのような問題が発生するのか検証してみた結果をお伝えします。

買取り制度廃止の影響を受ける太陽光発電設備

太陽光発電設備の設置に補助金制度が作られました。太陽光発電買取り制度(FIT)の廃止によっても、設備の撤去費用に補助金が必要になる可能性があります。

買取り制度の廃止対象は50~100キロワット超だが

買取り制度の廃止についてはまだ検討段階であり、決定したものではありません。しかしメディア各社の報道内容では『買取り制度の廃止対象は50kw~100kw超の新規事業者になる見込み』のようです。

規模の小さな発電設備に関しては買取りを継続するものの、買取り価格は現在の価格ベースからかなり低下することが予想されています。
因みに2019年度のFIT価格は次のとおりです。

  • 10kw~500kw未満:14円+税
  • 10kw未満:24円+税(出力制御対応機器設置義務なし)
  • 10kw未満:26円+税(出力制御対応機器設置義務あり)

買取り制度による契約期間は10年間ですが、契約期間が過ぎる契約については引き続き買取りをおこなうことを電力会社は発表しています。
問題は期間満了後の買取り価格ですが、2019年6月中には各電力会社が発表する模様ですが、ひとつの目安になるのが「日本卸電力取引所」の取引価格です。

下の図は2019年6月27日の取引情報のキャプチャーです。

買取り電力単価
参照 ⇒ JEPX

平均価格は9.14円ですので14円よりも低下する可能性は否定できません。

設備のメンテナンスが適正に行われるのか

買取り価格の低下は太陽光発電事業者の収益性に大きな影響を与えます。
一般の戸建住宅の屋根などに太陽光パネルが設置され始めた2012年当初は、40円という高額であったことを思うと、大変な下落ですなんと65%OFFになるわけです。

ここまで落ちると事業として継続できるのか不安に感じますが、あるアンケート調査によると『今後も太陽光発電投資に賛成』との答えは30%でした。50kw未満の新規事業は引き続き買取り制度を継続させるとしても、採算性の悪い制度では新規に太陽光発電に投資しようとする企業や個人は少ないでしょう。

今後は既存の設備をメンテナンスしながら発電する事業者だけが、再生可能エネルギーの一端を担っていくことになりそうな気がします。

事業者は買取り制度にもとづく発電事業を行うケースと、売電業者との相対取引によったり卸電力取引による売電方法を採用するケースがありますが、どちらにしても採算性の悪化は否めません。市場価格によって採算性が悪化した場合に、差額を補助する制度も検討されているようですが、いずれにしてもこれまでのビジネスモデルは成り立たなくなります。

採算割れする発電設備ではメンテナンス費用の捻出が難しくなる可能性があり、中には稼働停止したりする設備が増えることもあります。

このことは事業者の設備も一般家庭の設備でも同じことが言えます。

家庭用太陽光発電設備の場合、10年経過でパワーコンディショナーの交換が必要です。その他2年に1回は定期点検をおこなうことが望ましく、20年間で約30万円の費用がかかると言われています。

発電設備に加えて発電設備を設置する屋根材のメンテナンスも10年経過すると必要です。
屋根のメンテナンスは10年目の定期点検時におこなうと仮定しても、通常の屋根メンテナンス費用より割高になります。

メンテナンスの悪い設備ほど事故を起こす確率が増加。

事故による被害は発電設備だけでなく、屋根材にも及ぶことがあり軽視できません。
参照 ⇒ 消費者安全法第23条第1項の規定に基づく事故等原因調査報告書

運転停止による事故の多発

メンテナンスの不備による事故はメカニカルなものだけでなく、自然災害によっても起こりこちらのほうが深刻な被害を及ぼすことがあります。

自然災害による太陽光発電設備の事故【経済産業省】には平成30年の夏に発生した「事業用太陽光発電設備」での自然災害が記載されています。

被害状況の一覧を再掲すると以下のとおりです。

7月豪雨 台風21号 北海道胆振東部地震 台風24号
発電所数 19 23 3 3
原因
水没 8
土砂崩れ 11
強風 20 3
高潮 3
損傷部位
パネル 10 21 2 3
パワコン 9 5 1 1
キュービクル 4 1
その他 9 7 2 2

50kw以上の報告義務のある設備の被害は以上ですが、深刻なのが「土砂崩れ」です。
土砂崩れは発電設備に被害を及ぼすだけでなく、周辺にも甚大な被害を及ぼす危険性があります。
原因としてあげられるのが斜面を切り拓いてパネルを設置する工事方法です。

7月豪雨は西日本の各地で大きな被害を生みましたが、報告対象以外の設備も含めた7月豪雨による被害調査をみると、太陽光発電設備の危険性が分かります。

  • 敷地被害:103件
  • うち法面被害:57件
  • うち設置面被害:63件

敷地被害の半分以上が “法面被害” です。
調査をおこなった経済産業省は、敷地被害の過半が法⾯被害であることから、自然地形を改変した場所において、被害
が発生しやすいのではないか。
と指摘します。

太陽光発電設備には強風によるパネル飛散という危険性もあります。
参照 ⇒ 北東からの強風で、国道沿いの太陽光パネルが吹き飛ぶ

メンテナンスがいきとどいていると未然に防ぐことも可能ですが、採算性の悪化により停止してしまった発電設備のメンテナンスは誰がやるのでしょう。
事業用発電設備だけでなく、メンテナンスのされていない家庭用発電設備にも危険性があります。
空き家が増加していることは社会問題にまでなっていますが、空き家に設置された太陽光パネルが強風により吹き飛んでしまうと、屋根材が吹き飛ぶより数倍の被害を及ぼす危険性が。

廃棄物の処理責任は誰に

傾斜地に設置されたままの稼働を停止した太陽光パネル、空き家の屋根に設置され落下や飛散の危険性がある太陽光パネル、どちらも使用しなくなった廃棄物ですが、民有地に設置されているので所有権の問題があり、危険性があっても誰も処分することができません。

国の施策で進められた創電ブーム。
制度廃止によって大量の廃棄物が生まれる可能性が。
その廃棄物を処理する為の補助金が必要になる時がやがて来るような気がします。

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