湾岸エリアのタワーマンションを資産価値から考える

分譲マンションの資産価値を考えるうえで、いくつか重要なポイントがあります。長期的な視点に立つと管理体制はすごく重要で、区分所有者が同じ考え方にもとづいて、資産価値の下がらないよう維持管理に関心を持つことは最低限必要です。

さらに、資産価値は客観的に捉える面と、主観的に捉える面があることを知っておく必要があります。
どちらかというと主観的な見方に陥りがちなのですが、マンションの価格構成などから分析することにより、客観的な資産評価の方法を身につけることができるでしょう。

資産価値とはなにか?

資産価値をどのように定義するか、R.E.words 不動産用語集では次のように定義しています。

財産として評価した価額。おおむね市場での取引価格に等しい。これに対して、資産の利用によって得る便益に着目して評価した価額を「利用価値」という場合がある。

不動産の資産価値は、土地と建物を分けて算定することが多い。土地の資産価値は立地、区画形質などによって、建物の資産価値は立地、デザイン、管理状態などによって決まると考えられている。一般に、土地の資産価値は経年的に変化しない一方、建物の資産価値は建築後の時間経過とともに減少するとされる。ただし、不動産の資産価値は、通常、土地と建物が一体となって形成しているから、両者を截然と分けて評価することには限界がある。

引用: R.E.words 不動産用語集

上記のように資産価値は「土地価格+建物価格」により構成されるのですが、二面性もあることを指摘しています。

  1. 取引価格に反映される客観的な評価額
  2. 利用価値に着目して期待できる将来価格

客観的な評価額を求めるには

1番目の “客観的な評価額” を知る方法として、もっとも信頼性の高いのが「不動産鑑定評価」です。

不動産鑑定基準では、不動産の価格を形成する要因(価格形成要因)を次のように規定しています。

不動産の価格を形成する要因とは、不動産の効用及び相対的稀少性並びに不動産に対する有効需要の三者に影響を与える要因をいう。

引用:国土交通省「不動産鑑定評価基準」

とし、価格決定要因を次の3つとしています。

  1. 一般的要因
  2. 地域的要因
  3. 個別的要因

また不動産の価格を鑑定評価する手法としては3つの手法があります。

  1. 原価法
  2. 取引事例比較法
  3. 収益還元法

さらに価格形成要因は時間的な経過により変化し、「価格時点」を確定させるのですが、価格時点にも次の3つがあります。

  1. 現在時点
  2. 過去時点
  3. 将来時点

つまり現在時点の評価はもちろんのこと、将来の価格評価をすることも可能なわけです。

不動産価格の決まり方

不動産の価格は「土地+建物」または「土地」単独の価格となります。土地には所有権と地上権がありますが、ほとんどの場合は土地の所有権に対する価格になるのが一般的です。

ではマンション価格はどのようにして決まるのでしょうか。中古マンションは相場観が価格に反映されるので、新築マンションで考えてみましょう。

一般的にマンションは専有部分の面積から換算する “坪単価” で評価することが多いものです。

30坪のマンション価格が6,000万円であれば、200万円が坪単価です。では200万円を分解してみます。

マンションの販売価格は次の式で計算されます。

販売価格=土地価格+建物価格+販売経費

この式を坪単価に変換すると次のような式になるのです。

販売坪単価=容積率換算土地坪単価+建築坪単価+販売経費率換算単価

販売坪単価200万円のケースで具体的な数値を入れていきます。

  • 建築坪単価:100万円
  • 販売経費率:30%

この条件で式を完成させてみましょう。

200万円=40万円(容積率換算土地坪単価)+100万円(建築坪単価)+60万円(販売経費率換算単価)

建築費はどこで建ててもあまり単価は変わりません。経費率は30%と仮定しますが、物件によっては35%とか40%というケースもあるでしょう。

容積率換算土地坪単価が40万円の結果になりましたが、この単価から容積率に応じて実際の土地の単価がはじき出されます。マンション1戸あたりの容積率換算土地坪単価が40万円の場合、元の土地坪単価は容積率によって以下のように逆算できるのです。

容積率 土地坪単価
100% 40万円
200% 80万円
300% 120万円
400% 160万円
500% 200万円
600% 240万円
700% 280万円
800% 320万円
900% 360万円
1000% 400万円

マンション1戸あたりの容積率換算土地坪単価40万円は、坪単価が400万円で容積率が1000%の土地に該当します。
坪単価が200万円の場合は、容積率が500%の土地に該当します。

このことから例として、赤坂と豊洲に建つマンションを想定し、販売価格の構成を分析してみると以下のような結果が得られるのです。

赤坂 豊洲
土地坪単価 1,200万円 380万円
容積率 1000% 1000%
マンション土地坪単価 120万円 38万円
建設費坪単価 100万円 100万円
販売経費単価 94万円 59万円
マンション販売坪単価 314万円 197万円
30坪マンション価格 9,429万円 5,914万円

マンション価格の経年変化を試算

マンションは取得後建物価格は下がっていくものです。鉄筋コンクリートの法定耐用年数は47年ですが、使用年限はもっと長くなるのが普通です。ここでは60年間で建替え時期を迎え、建物価格は0になる前提で話を進めます。

経過年数によってマンション価格がどのように下がっていくのかを見てみます。
20年後、30年後、40年後の3パターンで、立地場所は赤坂と豊洲と仮定して計算したものが下表です。

20年経過 赤坂 豊洲
マンション土地坪単価 120万円 38万円
新築時建設単価 100万円 100万円
20年後建物単価 67万円 67万円
マンション販売坪単価 187万円 105万円
30坪マンション価格 5,600万円 3,140万円
掛け率 59% 53%
30年経過 赤坂 豊洲
マンション土地坪単価 120万円 38万円
新築時建設単価 100万円 100万円
30年後建物単価 50万円 50万円
マンション販売坪単価 170万円 88万円
30坪マンション価格 5,100万円 2,640万円
掛け率 54% 45%
40年経過 赤坂 豊洲
マンション土地坪単価 120万円 38万円
新築時建設単価 100万円 100万円
40年後建物単価 33万円 33万円
マンション販売坪単価 153万円 71万円
30坪マンション価格 4,600万円 2,140万円
掛け率 49% 36%

「掛け率」とは、新築時の価格に対する各時点価格の比率です。掛け率が低いほど値下がり率が大きいことを表しています。

表からわかるように、土地価格の高い立地ほど掛け率は高く、価格は下がりにくいといえるのです。

階数による価格の違い

新築マンションは上の階になるほど高くなります。豊洲の例で価格設定のシミュレーションをしてみると次のようになります。

販売価格
30 7,874万円
29 7,796万円
28 7,718万円
27 7,642万円
26 7,566万円
25 7,491万円
24 7,417万円
23 7,344万円
22 7,271万円
21 7,199万円
20 7,128万円
19 7,057万円
18 6,987万円
17 6,918万円
16 6,850万円
15 6,782万円
14 6,715万円
13 6,648万円
12 6,582万円
11 6,517万円
10 6,453万円
9 6,389万円
8 6,326万円
7 6,263万円
6 6,201万円
5 6,140万円
4 6,079万円
3 6,019万円
2 5,959万円
1 5,900万円

1階ごとに1%の価格アップで設定したのですが、30階の価格は33%の上昇です。
では1,974万円もの価格上昇の根拠はなにか? 坪単価にして66万円の上昇分は「プレミアム」としか考えられません。そこから生まれる利益はデベロッパーのものになるのです。

建物の評価が高いわけでもなく、土地の評価が高いわけでもないことに注目しなければなりません。


さてここまでは不動産鑑定手法のひとつである、「原価法」の基本的考え方にもとづいて “資産価値” を考えてきましたが、次項からは “需要と供給” により価格が決定されるプロセスを考えてみます。

モノの価格は需要と供給のバランスで決まる

  • 供給 > 需要 は価格が下降する
  • 需要 > 供給 は価格が上昇する

よくいわれる経済原則ですが、キーワードは “希少性” です。

希少なものは高価であり資産価値が高く、陳腐なものは資産価値が低くなります。

希少か希少でないかは、複数のモノのなかである特徴をもつモノの存在比率によって判断します。

ある地域に10棟のタワーマンションがあり、富士山を眺めることのできるマンションが1棟だけとか1室だけといった状態を “希少” といいます。ほかのマンション、ほかの住戸では味あうことのできない希少性は、他との比較により評価するので「相対的価値」といえるのです。

しかし、富士山を眺めることができることに、価値を見い出す人がどのくらいいるのかという視点で考える必要もあります。

富士山を眺められることに価値を見い出す人がたった一人の場合、ほかの人にとっては価値でもなんでもないわけです。この場合、たった一人の人にとって “富士山を眺められる希少性” は絶対的価値といえるのですが、ほかの人にとってそのことは無価値なのです。

価格を決定づける希少性は、「相対的価値」で捉えなければ市場が成立しません

しかし人は自分が所有するモノを評価するとき、なかなか相対的視点で捉えることはできません。たとえば「これは母からもらったモノだから……」とか、「将来高く売れるはずだから……」といった評価は、絶対的視点です。ほかの人が共有できるものではありません。

市場にはたくさんの人(売りたい人、買いたい人)が参加し価格が決まっていくわけです。そこで設定した価格が市場のなかで通用するかしないかは、市場にだしてみないとわからないことといえるでしょう。

不動産鑑定手法である「取引事例比較法」は、このように相対的価値観により生まれる価格を、論理的に組立てるプロセスにより算出されるのです。

収益還元法による資産評価

不動産鑑定評価の手法にはもうひとつ「収益還元法」があります。

主に賃貸用不動産の価格を求めるのですが、根拠となるのはこれまでの賃料と将来における賃料予測です。将来見込める収益を還元利回りで割り戻すことにより、現在価格を算定します

賃料設定は自由に決めることはできますが、実際に入居する人がいなければ意味がありません。やはり需要と供給により入居が見込める賃料が決定されます。

そのような意味からも、収益還元法で求める資産評価は “相対的評価” といえるのです。

ここまでで資産評価を考えるうえで「客観的な評価額」について述べてきました。
次項からは「利用価値」に着目した資産評価について考えてみます。

資産の利用価値とは

ここで資産価値の定義をもう一度確認してみましょう。

資産価値の定義

資産価値の定義では、取引価格と等しくなる資産価値とは別に「利用価値」という捉え方があるとしています。

利用価値とは、どのように考えるとよいのでしょうか?

辞書では “利用するだけの値打ち” とか “利用して生じる効果” と解説しています。
引用:weblio辞書

利用価値を評価するのは “利用している本人” しかできないわけで、他人が評価することはできません。つまり利用価値の評価とは=絶対的価値といえるのではないでしょうか。

絶対的価値は主観によるものであり他人がどう評価しようと関係なく、利用する本人が “値打ちがある、効果がある” と感じるわけです。

さて、ここまでの考察により資産価値とは次のように定義することができます。

資産価値には二面性があり、客観的に評価されるモノの価値、つまり一般的に取引価格に近い価格となる。
もう一面は、資産を所有するまたは利用する本人が感じるモノの価値であり、取引価格とは別次元の評価をいう。

マンションの資産価値を評価する

2019年の台風19号により地下室に浸水した水により電気設備が使えなくなり、エレベーターや給水設備さらに排水設備さえ使用できなくなりました。

資産価値が激減” などの目立つ見出しが、記事一覧に表示されることが多くありました。

資産価値の低下には二面性があります。

  1. 客観的に算出される取引価格が低下する
  2. 主観的に感じる利用価値が失われる

所有する人あるいは利用する人にとって、将来的な「取引価格」は関係ない興味がない……といったかたがおられると思います。

終の棲家であり将来的に相続する人もおらず、利用価値がなくなったときには、然るべき法的処理にもとづき所有権が消失してもよいと考えられる人です。(たぶんほとんどいないと思いますが?)

このような人を除きほとんどの場合、客観的な価値観と主観的な価値(相対的価値観と絶対的価値観)の、両面で資産評価する必要があるのです。

そしてもっとも重要なことは将来の資産価値なのです。

購入時の心理状態を分析

不動産物件を検討する時点では、無意識にこれまで述べた「資産評価」を頭のなかでやっているものです。そして購入決断に至る場合の心理を考えると、客観的(相対的) < 主観的(絶対的) な状態になっていると考えられるのです。

将来における “資産価値の激減”を避けるためには、客観的(相対的) > 主観的(絶対的) であることが望ましいのではないでしょうか。

そのためには、物件の立地や周辺環境、建物の質や管理体制など、一般的に必要とされるチェック項目の検討と、不動産鑑定評価手法にもとづいた客観的な評価額の算定は必要なことです。

もちろん不動産鑑定士に依頼する必要はありません、媒介を担当する宅建業者のスタッフに依頼すると簡単な計算はできるはずです。またネット上には、素人でも不動産査定ができる情報はたくさんあり、自身で客観的な資産評価をすることは可能になっています。

湾岸エリアのタワーマンションを評価する

ここからはいよいよこの記事のテーマである “湾岸エリアに建つタワーマンションの評価” です。

湾岸エリアにタワーマンションが建つようになった原因について、いろいろ書かれているものがありますが、そのなかで非常に的を得てると感じる『湾岸タワマン地区の異様な人口増が暗示する「空恐ろしい未来」 | 統計で読み解くニッポン | ダイヤモンド・オンライン』をまず見ていきます。

この記事で指摘しているタワマン建設増の原因は以下の3つです。

  1. バブル崩壊と産業空洞化により地価の下落が著しい地域であった
  2. 都市再生特別措置法をはじめとする臨時的な規制緩和がおこなわれた
  3. 2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催

地価水準が低下したことと規制緩和により、マンション建設コストに占める土地価格のウェイトが小さく、収益性の高い開発を可能にしたことが大きいといえるのです。さらに東京五輪がムードを高める効果を生み、開発エネルギーが集中されてしまったのでしょう。

記事で指摘している、将来においてオールドタウン化するニュータウンの問題が、相似的にこの地域でおこるかどうかは分かりません。ニュータウンと明らかに異なる「都心への利便性」があるからです。

ただ、確実にいえることは数十年後には必ず “再生” という課題が、すべてのタワマンに突きつけられることです。

ニュータウンの場合は公営住宅や都市機構など公的施設の存在が、数十年後に望まれるであろう理想的な姿に変換できる素材となり得ます。また、多数の戸建住宅の存在は、「地べた」の利用方法に多様性をもたせてくれる効果もあります。

しかし民間施設しかも区分所有という、権利調整のむずかしいタワマンばかりが建つ地域での再生は、新築時以上のむずかしい課題に直面することが考えられます。

さらにタワマン新築時に適用された、さまざまな時限立法や緩和措置が、再生時にも有効なものか何の保証もありません

古くから商業地域として指定され、ハイグレードなマンションの立地条件にふさわしい、湾岸エリア以外の地に建つタワマンにもやがて再生が必要なときが訪れます。

そのときどちらが望ましい再生事業になるのか、再生はデベロッパーの関与なしにはむずかしく、デベロッパーにとって魅力のあるのはどちらなのか、少なくとも湾岸エリアが有利だとは思えないのです。

ただしこれも将来に対する、あくまでも “主観” でしかないことをつけ加えておきます。

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