心理的瑕疵の告知義務についてどこまで調べて説明する必要があるのか

事故物件などの心理的瑕疵は契約解除や損害賠償請求を受ける原因になります。物件調査における媒介業者の責任は重く、入念な調査にもとづいた重要事項説明が必要。民法改正により買主の手段が拡大し心理的瑕疵は不動産売買で大きなリスクを抱える可能性が高くなっています。

そもそも心理的瑕疵とはなにか? 裁判においてどのような判例があるのか? などをとおして媒介業者が注意しなければならない調査方法や、万一瑕疵の存在があった場合の対処方法などを解説します。

心理的瑕疵の基準とは?

心理的瑕疵については明確な定義がありません。何故なら買主や借主の心の中の問題であって、何か事件があった物件を購入してもまったく気にしない人もいますし、最近お年寄りが病気で亡くなったというだけで嫌う人もいます。

『事故があったのが10年前で、その後所有者が二人変わっているので、心理的瑕疵に当たらない』等の都市伝説的な論を言う人もいますが、法的になんらかの基準のようなものや、宅建業界のガイドラインのようなものもありません。

買主や借主が “心理的瑕疵” と主張すると、残念ながら紛争になってしまうむずかしい面があるのです。

実際の判例からわかる “基準なし”

RETIO(不動産適正取引推進機構 )の判例には現在19件の心理的瑕疵に関する裁判事例があります。

心理的瑕疵とされた事例

  • 土地・建物の取引で売主が7年前にあった強盗殺人事件を告知しなかった。
  • 土地の取引で近隣のビルに暴力団事務所があるとされたが、実際は暴力団と関係が深い興行事務所であった。買主の請求である契約解除は認めなかったが、売主の説明義務違反を指摘された。
  • 一棟売り賃貸マンションの取引で、死亡した一室の死因が「事件性のない自然死」と説明していたが、後に自殺であることが判明した。売主は宅建業者であった為、瑕疵担保責任による損害賠償請求は認められた。ただし、心理的瑕疵に関する不告知が不法行為とは認定されなかった。
  • 中古分譲マンションの取引で、賃借していた前入居者が相当な長期間、性風俗店として利用していたことを、買主に説明しなかった。
  • 賃貸アパートの売買取引で、売買契約後引渡し前に1室の入居者が自殺した。買主は「危険負担条項」の毀損にあたるとして認められた。
  • 土地の取引で、3年前に土地上にあった建物で火災があり焼死者が出、損害賠償額が一部認められた。
  • 賃貸用の土地建物の売買で、1年11ヶ月前に元所有者の家族が睡眠薬自殺を図り、2週間後に病院で亡くなったことが購入後に判明した。買主は4,400万円の損害賠償を求めたが、裁判所は瑕疵担保責任により売買代金の1%、220万円の賠償を命じた。尚、売主の説明義務違反は認めなかった。
  • 1年前に飛降り自殺のあった1棟売りマンションを転売目的で購入した宅建業者が、購入後1年経過して売却した。新たに購入した買主は、購入後に2年前に飛降り自殺があったことを知り、告知義務違反による損害賠償を求め認められた。
  • 土地の取引で、以前土地上にあった建物内で殺人事件があったことが後日判明し、売主の瑕疵担保責任が認められた。
  • 建物価額をゼロとした不動産売買で、建物の瑕疵担保責任を負担しない特約があったが、この物件で自殺があったことが判明し、瑕疵担保責任を負うことになった。
  • 農山村地帯の中古住宅の売買で、売主の前所有者が売買の7年前に附属建物で自殺していた。隠れた瑕疵が認められ契約解除になった。
  • 居住目的で購入した中古マンションで6年前に自殺があり、契約解除と損害賠償が認められた。

心理的瑕疵では無いとされた事例

  • 土地の取引で、17年前にあった建物で火災があり焼死者が出た。
  • 分譲マンションの取引で、建築工事中の事故で作業員が亡くなった。(他、同様の判例が2件あり)
  • 土地の取引で、以前あった共同住宅で発生した殺人事件に関し告知しなかったと、売主及び仲介業者が訴えられたが、殺人事件を知っていたとは認められず、仲介業者に調査義務を負わせる特段の事情は無いとされた。
  • 売買した不動産で過去に自殺があったとして瑕疵担保責任を争った裁判で、裁判所が自殺があったとはいえないとして、瑕疵担保責任が否定された。
  • 購入した中古住宅の建物を解体して、建売住宅を計画していた買主業者が、建物解体後、2年前に売主の家族が自殺をしていたことが分かり、契約解除と損害賠償を求めたが、瑕疵を認めず請求は棄却された。

似たような事例でも契約解除・損害賠償請求に至った件もあれば、瑕疵が認められないケースもあり、まさにケースバイケースという感じがします。

○年経過しているから大丈夫とか、2代前だから大丈夫などの基準はありません。
かなり以前のことであっても、心理的瑕疵に該当するようなことが情報として入手した場合は、すべて説明する必要があるといえるでしょう。

心理的瑕疵に該当する事実の調べ方

売主や周辺でのヒアリング
まずおこなうのは “売主さんからのヒアリング” ですが、居住しておらずほとんど物件周辺のことはわからないという場合もあります。そのようなときは周辺住民のかたへの聞き込みが必要でしょう。
インターネット検索
インターネット検索により過去の事件や事故をキャッチできることもあります。キーワードに地名を加えることで以前おきたことなどがヒットします。
事故物件サイト
事故物件を公開しているサイト「大島てる」で、物件所在地付近を調べる方法も有効です。有名なサイトなので買主や借主が自身で調べていることもあります。このサイトにアクセスすると簡単にわかることを、媒介業者が調べもしないで「知らなかった」ではすまされません。最低限やっておく調査でしょう。
図書館での調査
全国紙等の記事索引・検索サービスからは、全国紙・地方紙の記事検索サービスへのリンクがあります。「事件・事故」カテゴリーの記事を検索し、ヒットした記事の詳細は「縮刷版」で内容を確認する方法もあります。

重要事項説明と心理的瑕疵

心理的瑕疵については基準がない以上、どこまで調査し説明しなければならないといった基準もないわけです。

考えられる調査をおこなったうえで、該当するような事実を知ることができなかった場合は「告知事項
なし」と説明しますが、知り得なかった心理的瑕疵が後日明らかになり買主から損害賠償請求を受けることもあります。

調査しなかったとか故意に説明をしなかった訳ではありません。しかし訴訟においてはどのような判断が下されるか予測はできません。

そのような場合への対処として「宅地建物取引士賠償責任保険」の加入は必要なことでしょう。

瑕疵担保責任による契約解除

心理的瑕疵による瑕疵担保責任を問われるのは「売主」になります。媒介業者の説明責任不履行による損害賠償は前述の「宅地建物取引士賠償責任保険」でカバーできたとしても、売主の責任はカバーできません

売主には契約解除という重い負担が生じます。

さらに2020年からの民法改正により「契約不適合責任」が問われ、買主からは4つの請求を受けることになります。

  1. 追完請求
  2. 代金減額請求
  3. 契約解除
  4. 損害賠償

また売主に悪意や重過失があった場合は、瑕疵について買主が知ってから1年以内に権利行使をしなければならないという期間制限はなくなります。

孤独死や自殺あるいは事件など “心理的瑕疵” といわれる「事故物件」は毎年増加します。累積物件数が減ることはありません。売主が知らない瑕疵によって、契約解除や代金減額などのリスクを負担することのないよう、媒介業者の責任はより重くなっているといえるでしょう。

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