宅地建物取引業における宅地建物取引士の役割とは、どのようなものなのでしょう。また宅建業者免許取得には専任の宅建士を設置することも義務となっており、専任と専任ではない者の資格や役割に違いがあるのでしょうか。
宅地建物取引士に関わる法律上の規定は、宅地建物取引業法の第3章(第15~第24条)にあります。
参照:宅地建物取引業法第3章
冒頭の第15条には、宅建士は宅地建物取引の専門家であり、購入者等の利益を保護し不動産の流通が円滑になるよう努める義務があると書かれています。
宅建士は不動産の取引にあたって、当事者双方の間に立ち取引の中心的な存在となるので、非常に重要な役割を担っています。とくに不動産取引にて各種の契約において行う「重要事項説明」は宅建士の独占業務となっており、宅建士以外の者が説明をすることはできません。
重要事項説明に関することは、宅建試験においても必ず出題されるテーマであり、ここでは令和6年試験の[問26]の問題も例示しながら、宅建士の役割について解説します。
宅建士が説明を行う重要事項の内容
重要事項説明で宅建士が行う説明事項は、宅地建物取引業法第35条に定められています。
(買主が宅地建物取引業者の場合は説明は不要であり、重要事項説明書の交付のみになります。)
- 取引対象不動産に登記された権利の種類と登記名義人の氏名・名称
- 都市計画法・建築基準法およびその他の法令に基づく制限
- 私道に関する負担について(建物貸借契約以外の場合)
- 飲用水・電気・ガス・排水設備と設備がない場合の設備の見通しと費用負担
- 宅地造成や建築工事完了前の場合は、完了時におかる形状、構造など
- 区分所有建物の場合は、敷地権に関する種類や内容と共用部分に関する規約やその他の建物・敷地に関する管理や使用に関する事項
- 既存建築物の場合は建物状況調査の有無と実施した場合の結果
- 既存建築物の設計図書・点検記録など建築および維持保全状況がわかる書類
- 代金、交換差金、賃料以外に授受される金銭の額と目的
- 契約解除に関すること
- 損害賠償額の予定や違約金
- 手付金の保全や保管について
- 支払金または預り金の保全措置
- 代金又は交換差金に関する県選貸借のあっせん内容と金銭の貸借が成立しない場合の措置
- 契約不適合となる場合の担保責任履行保証保険や措置の有無と措置の概要
- 宅建業法第35条第1項14号で定める「宅建業法施行規則第16条の4の3」に該当する事項
- 割賦販売に関する事項
- 宅建業者が不動産信託受益権の売主となる場合の事項
出典:宅地建物取引業法第35条
説明にあたって宅建士には次の義務があります。
- 宅地建物取引士証の提示
- 重要事項説明書への記名
専任の宅建士の役割
宅地建物取引業を行う事務所には必ず専任の宅建士が必要です。専任宅建士の設置義務は宅建業法第31条の3に定めています。
参照:宅建業法第31条の3
宅建士の人数に関して現在「業務従業者5人に1人」となっていますが、この規定は昭和63年の法改正によるもので、旧建設省令により定められています。
参照:第10次改正(昭和63年5月6日公布 法律第27号)の概要
不動産取引は専門性が高く扱う金額も高額になる場合があり、契約締結過程で重要な役割があるため、宅建士が多く在籍する事業所も多くみられます。
「5人に1人」とは宅建士も含めた従業者が5人という意味なので、5人すべてが宅建士の有資格者ということもあります。専任の宅建士はその中で1名が役割を担いますが、宅建士としての業務の範囲はみな同じであり、専任宅建士には「専従性」が求められています。
冒頭に揚げた令和6年試験の[問26]は、宅建士が行う重要事項説明に関する問題ですが、4択の答えのうち正しい記述がされている答えの数を回答するものです。
- 一戸建て住宅に設備されたプロパンガス配管設備の説明義務
- 重要事項説明書への記名は専任の宅建士に限定されている
- 区分所有建物の管理を委託されている事業者に関する説明義務
- 中古マンションの修繕積立金に関する説明義務
以上4択のうち2番目については、宅建士の役割は説明および記名であり、記名のみ専任の宅建士に限定されてはいないため「誤り」です。
したがって、他の3択の答えは正しいのでこの問題の回答は、3番の「三つ」となります。
ここまで述べてきたように宅建士と専任の宅建士の役割に大きなものはありませんが、5人に1人の専従性を求められる宅建士が必要とされているといった理解でいいようです。
宅建士の専従性とは?
宅建士の専従性(専任性)とはどのように定義されているのでしょう?
新型コロナウィルス感染症の全国的な拡大による働き方への影響や、ITの普及によりリモートワークが一般化されるなどの変化に応じ、令和3年に「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(ガイドライン)」が改正され、次の文言が追加されています。
ITの活用等により適切な業務ができる体制を確保した上で、宅地建物取引業者の事務所以外において通常の勤務時間を勤務する場合を含む。
引用:宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(平成13年国総動第3号)新旧対照条文
つまり宅建士の業務は必ずしも「事務所」内での勤務に限定はされていません。現状においては、専従性を定義する要点は次のとおりです。
- 専任とは、宅建業を営む事務所に常勤して宅建業の業務に従事すること(リモートワーク含む)
- 宅建業以外の事業も行う事務所内では、専任の宅建士が宅建業の業務を行わない時間に、一時的に宅建業以外の業務に就くことは差し支えない
- 事務所が複数ある宅建業者の場合、所属する事務所内で宅建業務に就いていない時間、ITの活用により他の事務所の宅建業務を就くことは可能(他の事務所の専任宅建士を兼ねることはできない)
出典:宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(令和7年4月1日施行版)
以上のことから、事務所ごとに専任の宅建士が必要ですが、同一宅建業者の他の事務所の業務をITで行うことは可能であり、IT活用により所属する事務所以外での勤務であっても専従性が認められます。
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